栗田亘の文章1日道場・グランプリ作品
海外 ( 出口龍彦さん 千葉県 )
レストランの勘定を、レジではなくテーブルについたまま済ませることをテーブルチェックという。最近、日本人の間でも普及してきたが、怖い話をひとつ。
平成十五年九月。毎年この時期、ラスベガスでは世界最大のサイクルショーが開催される。新年度モデルが一斉に発表されるとあって、自転車を扱っているわが社は是が非でも行かねばならない。だが誰も忙しくて時間がない。結局一番暇な社長がいってくれと、滞在二十四時間で往復する破目になった。
ショーの会場では旧知の友人に会い、久しぶりに夕食をともにした。ラスベガス通りにほど近い中華料理屋で歓談し、友人とはそこで別れた。帰り道、スーパーマーケットに寄って、ワイン、プロシュート、メロンを買いホテルに戻った。翌日、成田行き直行便に乗り込んだので、出費もごくわずかであった。
ところがひと月ほどたってクレジットカード会社から百四十万円もの請求が来た。
カードを紛失したわけではない。電話で利用明細を尋ねると、骨董品を購入したらしい。もちろん心当たりはない。日付を聞くと私がアメリカを出国した三日後のことだ。偽造カード使用者が本人でないことは、パスポートの出入国記録が証明してくれる。
滞米中の二十四時間を振り返る。カードを使ったのは中華屋とスーパーの二度だけである。中華屋の方で、いつものようにテーブルチェックをした。その時の情景が鮮やかに甦った。カードを託したウェイターは二十分たっても三十分たっても戻ってこなかった。
滞在時間が短かったことが幸いした。中華屋でデータを読み盗られたに相違ない。
カード会社の話ではこの時期、ラスベガスで同様の事件が多発した。どの店で犯行が行われたか特定できなかった。お蔭で犯人にアシがつくと感謝された。海外旅行には事件事故がつきもの。だがさすがに犯人も、私がデイトリッパーだとまでは読み取れなかった。
